


《ねこの生活》と題された本作では、人と共に暮らす猫の姿が描かれています。本棚の狭い隙間でくつろぐ猫、お腹を見せて甘える猫、大きな欠伸をする猫、大胆な筆使いで描かれた猫達は生き生きとしており、どれも特徴がよく捉えられています。作者は可愛らしさだけでなく、賢く逞しい猫の生き方に心惹かれ、絵で表現したいと考えるようになったと言います。
本作のように、今年のボローニャ展では、猫が描かれた作品が多く入選しています。猫の自由な生き方が、国境や文化を越え、多くのイラストレーター達にインスピレーションを与えていることがよく分かります。

画面の左側にはねずみが赤ちゃんを出産する様子、右側では死んだねずみが棺に入れられて運ばれていく様子が描かれています。次の場面では、ねずみの赤ちゃん達がすくすく育ち、埋葬されたねずみは骨になり土に還っていく、といったふうに物語が続いていきます。生と死を隣り合わせで構成することで命が受け継がれていく様を、さらに、ねずみの周囲に虫や爬虫類、植物や菌類を描き、自然の中で循環しているあらゆる命とその営みを見事に描写しています。
本作は、文章が書かれていないイラストのみの絵本として2025年に出版されました。これまでも世界中で、「いのち」という普遍的なテーマを扱った素晴らしい絵本が生み出されています。4年もの構想・制作期間を経て完成した本作も、世代や国境を越え、多くの人々に読み継がれていくことでしょう。
《復讐するは我にあり》.jpg)
本作は、韓国の民話が元になっています。主人公は畑から豆を盗んだウサギを捕まえようとあの手この手を使い、最後は火のついた松明を持って追いかけますが、その火は自宅に燃え移り、自身の行いにより全てを失ってしまいます。物語の展開もさることながら、目を惹く激しい色遣いと、怒りの形相を浮かべる主人公の迫力ある姿が印象的で、今年の入選作のなかでもひときわインパクトがあります。
日本の絵巻にも多く使われている、異なる時間の出来事が同じ画面に描かれる異時同図法で描かれています。ここで紹介している1枚にも、いくつかの場面が細かく描き込まれており、その構成力には目を見張るものがあります。この作品は絵本として出版されていますが、通常の形態とは異なり、蛇腹状に折り畳まれた装丁で、横長に広げて読むことができます。会場では是非絵本を手に取り、作品としての完成形もお楽しみください。
《ある一瞬:砂のスケッチ》.jpg)
絵本原画コンクールの応募の規定には、作品の技法に関するものはありません。そのため、ボローニャ展では毎年多様な技法の作品を見ることが出来ます。その中でも珍しいのが、砂絵で描かれたこの作品です。
作者は様々な画材に触れて自身の表現を模索する中、2023年にチベットの砂曼荼羅に出会いました。それがきっかけで幼少期に親しんでいた砂絵の魅力を再び見出し、以後この技法を追求し続けています。
本作は、活動拠点であるイギリスの各地を旅した思い出や、その時々に抱いた感情を元に描かれました。砂絵ならではの繊細さと優しい色合いが美しく、詩情豊かな作品になっています。液晶画面では分からない、はがき大の小さな紙を埋め尽くす砂一粒一粒がきらめく様を是非会場でご堪能ください。
《おでこにたんこぶ?いえ、たまご》.jpg)
エンヒッケ・モレイラは今年で3度目の入選で、2024年にはSM出版賞を受賞しており、ボローニャ展ではお馴染みの作家です。今年の入選作もこれまで同様シンプルな絵柄と少ない色数で構成されています。
本作の主人公の男の子は転んで頭をぶつけて、おでこに大きなたんこぶができてしまいます。しかし、たんこぶだと思っていたそれは実は玉子でした。男の子は玉子について調べるべく、百科事典のなかにとびこみます……現実ではありえない物語ですが、この作者らしい愛嬌ある絵柄とユーモアあふれる発想が魅力の作品です。5点の作品の中でテンポよく物語が進む構成も見事で、ボローニャ展常連入選者である作者の力量が感じられます。
《ぼくらの星》.jpg)
本作は架空の惑星を舞台にした作品です。ちょっと不思議な生き物たちが暮らす街の様子が描かれています。よく見ると、生き物や建物には細かな模様が描かれていることが分かります。作者はデジタルツールを用いてこの作品を描きましたが、模様部分は、海岸で拾った流木やロープで描いた絵をスキャンしたものが元になっています。
この作者のように、アナログとデジタルの両方を併用する入選作家は多くいます。デジタルツールの発達は、多様な表現を可能にしました。「原画」というとアナログ技法で制作された作品をイメージする方は少なくないと思いますが、いまやデジタル技法も絵本原画を語るうえでは欠かせない重要なツールの一つとして定着しています。
今年60年目を迎えたボローニャ展。60年前には考えられなかった技法で制作された原画が毎年数多く入選しています。様々な画材を駆使して新たな表現を生み出そうとするイラストレーター達の柔軟で意欲的な姿勢は、原画の可能性を広げ続けています。

ボローニャ展入選作品などを紹介します。
順次更新予定です。